van Lente, Dick. (Ed). (2012). The Nuclear Age in Popular Media: A Transnational History, 1945-1965. New York: Palgrave Macmillan.

book1本書は大衆メディアに描かれた原子力をめぐる言説を比較研究的かつ越境史的観点から分析した専門書である。編者であるディック・ファン・レンテ(エラスム ス・ロッテルダム大学教授)によると、これまでの大衆文化における原子力イメージの研究の多くは、一国内における原子力イメージの分析にとどまり、その越 境的側面にはあまり注目してこなかった。従来の大衆メディアにおける原子力イメージの研究に、比較研究的かつ越境史的アプローチを加えることを通して、各 国に共通する原子力をめぐる言説、または特定の国にのみに当てはまる言説を体系的に明らかにすることが本書の目的である。

本書は8か国(旧ソビエト連邦・米国・東西ドイツ・英国・オランダ・日本・インド)の代表的な写真週刊誌を主な分析対象としつつ、新聞、テレビ番 組、漫画などにおける原子力イメージも適宜参考にしながら、1945年から1965年に至るまでの大衆文化における原子力をめぐる言説を分析している。本 書の構成は以下の通り。

Chapter 1: Introduction: “A Transnational History of Popular Images and Narratives of Nuclear Technologies in the First Two Postwar Decades” by Dick van Lente

Chapter 2: “Shaping the Soviet Experience of the Atomic Age: Nuclear Topics in Ogonyok, 1945-1965” by Sonja D. Schmid

Chapter 3: “To See … Things Dangerous to Come to”: Life Magazine and the Atomic Age in the United States, 1945-1965” by Scott C. Zeman

Chapter 4: “Learning from War: Media Coverage of the Nuclear Age in the Two Germanies” by Dolores L. Augustine

Chapter 5: “Dawn—Or Dusk?”: Britain’s Picture Post Confronts Nuclear Energy” by Christoph Laucht

Chapter 6: “Nuclear Power, World Politics, and a Small Nation: Narratives and Counternarratives in the Netherlands” by Dick van Lente

Chapter 7: “Nuclear Power Plants in ‘The Only A-bombed Country’: Images of Nuclear Power and the Nation’s Changing Self-Portrait in Postwar Japan” by Hirofumi Utsumi

Chapter 8: “Promises of Indian Modernity: Representations of Nuclear Technology in the Illustrated Weekly of India” by Hans-Joachim Bieber

Chapter 9: “Conclusion: One World, Two Worlds, Many Worlds?” by Dolores Augustine and Dick van Lente

Appendix I: Picture Essay: Images of Nuclear Power in Illustrated Magazines

Appendix II: Nuclear Issues in Eight Countries, 1945-1965

本書に掲載された論文のうち、311を理解するうえでとくに参考になるものとして第7章の内海博文(追手門学院大学)による論文が挙げられる。内海 は日本の写真週刊誌『アサヒグラフ』における原子力のイメージを文化的・社会的・歴史的文脈に位置付けながら分析し、『アサヒグラフ』が占領期において連 合国最高司令官総司令部(GHQ)に設置された民間情報教育局や米紙「ニューヨーク・タイムズ」、さらには米大手通信社AP通信から記事の提供を受けてい たこと、また占領期が終わったのちも英国大使館から写真の提供を受けていたと指摘する。加えて、内海は『アサヒグラフ』に描かれた原子力のイメージを、日 本人の原子力観をコントロールするためのイメージとしてのみ理解するのではなく、当時の日本人の原子力に対する世論の反映としても理解すべきだと主張して いる。

本書は専門家に向けて書かれているものの、各国の歴史的背景、各写真週刊誌の編集方針、各写真週刊誌の読者層など各章で丁寧に説明されている。大学生以上のテキストとしてのぞましい。

Yasuhito Abe, University of Southern California

本:The Nuclear Age in Popular Media: A Transnational History, 1945-1965
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