Aldrich, D.P. (2008). Site fights: Divisive facilities and civil society in Japan and the West. Ithaca, NY: Cornell University Press.

邦訳:ダニエル・P・アルドリッチ『誰が負を引きうけるのか:原発・ダム・空港立地をめぐる紛争と市民社会』世界思想社、2012年

本書は原子力発電所や空港やダムなどといった市民全体にとっては必要であるものの、それらの施設が設置される地域共同体には好ましくない影響を及ぼす可能性のある施設について、日本の国家機関と市民社会の関係性という観点から論じた専門書である。著者のダニエル・P・アルドリッチ(パデュー大学準教授)は本書を通じて、国家機関は市民社会の成熟度が低い地域にこれらの施設を設置する傾向があると主張している。著者によると、市民社会としていまだじゅうぶんに成熟していない地域において組織的な反対運動が存在しない場合には、政策立案者は強硬的な手段を通してその地域にこれらの施設を設置する傾向があるという。このことは、市民社会として成熟している地域において組織的な反対運動が起きた場合にのみ、政策立案者は地域住民の理解を得るために説得や補助金などのソフトな手段を講じる傾向があることを示す。

本書は日本の原子力政策および福島原発事故の理解を深めるうえで有益な資料であると言える。なお、本書は2012年に世界思想社から『誰が負を引きうけるのか:原発・ダム・空港立地をめぐる紛争と市民社会』として邦訳された。

本書の構成は以下の通り。

Introduction: Site Fights and Policy Tools

  1. Picking Sites
  2. A Logic of Tool Choice
  3. Occasional Turbulence: Airport Siting in Japan and France
  4. Dam the Rivers: Siting Water Projects in Japan and France
  5. Trying to Change Hearts and Minds: Japanese Nuclear Power Plant Siting
  6. David versus Goliath: France Nuclear Power Plant Siting
  7. Conclusion: Areas for Future Investigation

各章の中でもとりわけ東日本大震災に伴う福島原発事故の参考になるものとして、第五章と第六章が挙げられる。第五章では、日本の原子力政策の歴史が叙述されたのち、日本政府がいかにしてさまざまな地域住民による反原発運動に対処したかが分析されている。第六章は比較研究の対象として、日本の国家機構と共通点を多く持つフランスの事例が取り上げられている。国家機構では共通点が多いものの、日仏の政策立案者による反原発運動に対する対処の仕方には大きな違いが存在する。本書は専門的な用語が数々散見されるものの、その都度丁寧に説明されているため高校生高学年から大学生以上に適切な教材であると思われる。

-Yasuhito Abe

[関連した2011年のアルドリッチとデュシンベールに書かれた記事「Hatoko Comes Home」はこちら。]

本: Site fights: Divisive facilities and civil society in Japan and the West
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